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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)1018号 判決

控訴人

原良男

右訴訟代理人

大蔵永康

被控訴人

有限会社三宅商工

右代表者

厳柱封

右訴訟代理人

平原昭亮

外二名

主文

本件控訴を却下する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、本案前の申立てとして、「本件控訴を却下する。訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を、本案に対する申立てとして、「本件控訴を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係は、主張として、控訴人において、「請求原因事実はすべて否認する。」と述べ、なお、控訴の追完について、「原判決の送達は、控訴人に対する公示送達によりなされたものであるが、控訴人は、公示送達による送達の方式がとられたため、本件訴訟及び原判決を全く知ることができず、ようやく同五五年四月一八日に原判決を債務名義とする有体動産差押えを受けるに至つて、始めてこれを知つたのであるから、民事訴訟法第一五九条により、本件控訴の追完をなすものである。」と述べ、〈以下、省略〉。

理由

一職権によつて調べてみると、原判決は、昭和四九年八月一九日原審・東京地方裁判所八王子支部において言い渡され、控訴人に対しては同月二〇日公示送達の方法により判決正本送達の手続がとられたが、その公示送達は、民事訴訟法第一八〇条第一項但書の規定により掲示の日の翌日である同月二一日に効力を生じたものであるところ、控訴人は、控訴期間経過後の同五五年四月二三日当裁判所に控訴を申し立てたことが記録上明らかである。

二そこで、控訴期間に関する控訴の適否を検討しなければならない。

記録によれば、被控訴人を原告、控訴人外一名を被告とする本件貸金請求事件は、被控訴人において、昭和四九年二月二日東京地方裁判所八王子支部に訴えを提起したものであるが、控訴人の訴状記載の住所である東京都小平市花小金井二丁目七一九番地に宛てて訴状副本が送達されたところ、控訴人の転居先不明で不送達となつたので、同裁判所は、同年三月二二日訴状補正命令を発したこと、これに対し被控訴人は、同月二六日公示送達の申立てをなし、同裁判所は、同年四月二一日右申立てを容れて公示送達の許可をしたうえ、爾後訴状副本、同年六月一二日午前一一時の第一回口頭弁論期日呼出状、同年七月一五日午後二時三〇分の第二回口頭弁論期日呼出状及び同年八月一九日言渡しの判決正本等をいずれも公示送達の方法によつて送達したもので、その審理判決は、控訴人不出頭のままなされたことが認められる。

ところで、〈証拠〉及び控訴人本人尋問の結果をも加えて更に調べてみると、控訴人の右訴状記載の住所は、控訴人が少なくとも昭和四八年一一月三〇日まで現実に居住しており、当時の住民基本台帳法上の住民票にも記載された住所であるが、ただ同住民票には、同日に東京都昭島市拝島二〇一七番地へと転出予定と記載されていること、しかし結局控訴人は、同所には転出せず、翌日右訴状記載の住所から小平市役所のそばに移り約一か月間住まつた後、横浜市保土谷の友人宅に移り、同所で約半年住まつてから大阪府泉佐野市の友人宅に移り、ようやく同五二年一二月一日同市湊四丁目三番一七号に職権記載による住民票の作成がなされるに至つたこと、被控訴人は、前記訴状不送達の後、調査した結果、前記転出予定先にも控訴人が居住していないことを突きとめたが、それ以上控訴人の住居所が何処であるかは、住民票、戸籍付票その他によつても、これを知る手がかりをつかめなかつたこと、この間控訴人が代表取締役である原審相被告豊肥建設有限会社(ちなみに同会社の商業登記簿上の本店所在地は、控訴人の前記訴状記載の住所と同一である。)は、被控訴人に対する本件消費貸借債務金一〇〇万円(控訴人の本件債務は、この連帯保証債務とされる。)を含む総額約二〇〇〇万円の債務をかかえて昭和四九年一月事実上倒産し、他方約二〇〇〇万円の請負代金債権の取立てを住吉連合に依頼したことにからんで同連合から控訴人自身脅かされ、身の危険を感ずるに至つたこともあつて、前記の如く転々と住居所を変え、少なくとも前記豊肥建設有限会社の代表取締役としては債権者であることを争わない被控訴人に対しても、住吉連合が話を進めているということに藉口して何らの連絡をとらず、住居所の変更につき住民基本台帳法による市町村長への届出を正当の理由なく四年間にわたつて怠つたことが認められ、控訴人本人尋問の結果中右に反する部分は信用できない。

してみると、被控訴人が控訴人に対する本件訴訟の追行について公示送達の申立てをせざるを得なかつたこと、原審裁判所がこれを許可したことはもつともであり、他方控訴人が原判決を公示送達の方法によつて受けたため前記の如く控訴期間を遵守することができなかつたものであるとしても、本件の場合はそれが控訴人の責めに帰すべからざる事由によるものとすることはできない。

三よつて、本件控訴は不適法であるから却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(林信一 高野耕一 石井健吾)

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